エース社員の突然休職問題に向き合った結果、有給でのサボりを公認した理由

エース社員の突然休職問題に向き合った結果、有給でのサボりを公認した理由

「隠れストレス負債研究所」を運営する株式会社DUMSCOでは、通常の有給休暇とは別に、月1日のサボリを公認する新しい有給休暇制度「なんとなく休暇」を導入することを決定しました。
エース社員が突然休職する理由に向き合った同社が、なぜサボることを公認するに至ったのか、心療内科・産業医の鈴木裕介先生と同社人事の加勇田雄介の、お二人にお話を伺いました。

鈴木裕介(すずき・ゆうすけ)

内科医・心療内科医・産業医
2008年高知大学卒。2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原内科saveクリニックを開業。研修医時代の近親者の自死をきっかけに、ライフワークとしてメンタルヘルスに取り組み、産業医活動やSNSでの情報発信を積極的に行っている。
著書に著書に『メンタル・クエスト 心のHPが0になりそうな自分をラクにする本』など。
東洋経済オンラインプレジデントオンラインなどでも、エース社員の突然休職問題を問題提起し続ける
twitter : @usksuzuki

加勇田雄介

加勇田雄介(かゆだ・ゆうすけ)

上場企業、スタートアップの人事として、エース社員が突然休職する問題に直面。その経験をもとに、エース社員の突然休職対策として、ストレス客観評価アプリ・ANBAIの事業開発と、その運営元・株式会社DUMSCOの人事を兼任。
twitter : @yusuke_kayuda

つっきー(モデレーター)

feministな会社員。個人でコラムやエッセイのお仕事も。今は東京のIT企業でフルタイム・フルリモートしつつ、長野で暮らすという二拠点生活をしています。植物・ドラマ・宝塚が好き。
twitter : @olunnun
メールマガジン「ご自愛通信」 : gojiai.theletter.jp
突然休職の体験記事 : 『「ご自愛する」という戦い方』を選択した、私の2年間の葛藤

ストレスは自覚できないからこそ、休む理由は「なんとなく」でいい

つっきー

新しい有給休暇制度「なんとなく休暇」を導入するにあたって、現状の勤怠管理システムに課題を感じていたということですが、どのあたりに問題があると考えていましたか?

加勇田

以前から鈴木先生にストレスについて解説して頂くなかで、人はそもそもストレスを自覚しづらいということが分かり、「人が休むためのもっともらしい理由を体感できる時には、かなり心身ともに危険な状態なのでは?」と考えるようになりました。
一方で、多くの企業で導入している勤怠管理システムでは、本来有給申請時に理由を伝える義務はないにもかかわらず、申請する際に理由を記載することが、事実上必須になっているツールが多いんです。弊社が導入したシステムも、事実上必須になっていました。

有給休暇

こういう申請方法の場合、「メランコリー親和型」と言われるような、規範意識と責任感が強くて「大丈夫」が口癖の、真面目な優等生タイプの方は、もっともらしい休む理由がないと休みにくいのだろうなと。
そこで、特に理由もなく「なんとなく休みます」と言える企業文化を作っていくために「なんとなく休暇」と銘打って、月に1日休みを取得できるようにしました。

つっきー

「なんとなく休める文化」いいですね。通常の有給とはどう違うんですか?

加勇田

もともと付与される有給休暇にプラスして取れるお休みです。
最近忙しかったからちょっと小休止入れようとか、偏頭痛とか生理痛といった、人には言いづらい体調不良がある時にも使ってもらえたらと思っています。もちろん「なんとなく休暇」も有給です

エース社員を惑わす、アドレナリンの落とし穴

つっきー

「人はそもそもストレスを自覚しづらい」とのことですが、どうして自覚しづらいのか、簡単な解説をお願いします

鈴木

「人はストレスを感じると、そのストレス状態に対抗するために、アドレナリンやコルチゾールなどの抗ストレスホルモンと言われるものが出て、活動性をあげるために血圧を上げたり血糖値を上げたりしてその状況にがんばって対抗しようとします。
その期間は、抗ストレスホルモンによってパフォーマンスが「ドーピング」されているような状態なんですが、パフォーマンス低下が実感できなかったり、むしろ上がっていたりするので、ストレスがかかっていると実感することが難しいんです。
人間はストレスを頭で考えようとしますが、頭で考えていることと体が感じていることには、実はものすごく乖離があって、得てして体のほうが鋭敏であるということが多いんです。

加勇田

そういった体の変化を分析しストレスを評価するアプリ・ANBAIを使った調査では、突然休職するリスクが高いにもかかわらず、それを自覚していないビジネスパーソンが、18%に上ることが明らかになりました。詳しくはこちら
だからこそ、組織としてサボリを公認して、“なんとなく”で休んでほしいんです

「軽く車に轢かれてちょっと怪我したら、堂々と休めるのに……」

つっきー

そもそもなぜ「もっともらしい理由」がないと休みにくかったり、罪悪感を感じてしまうんでしょうか?

鈴木

メンバーが休むことを前提として運営されている組織って少ないですよね。とくに、経営が苦しかったりすると、常に今いるメンバーが限界まで動いてなんとか回る、という状態になってしまうだろうと思います。

私の患者さんでも、休職を勧めてもなかなか休めない方は結構います。「軽く車に轢かれて怪我したら、安心して休めるのに……」なんて仰ることも。休むことへの罪悪感ってかなり根深いですよ。

つっきー

誰が見ても休まなければならない状態にならないと休めないほど、「休み」への罪悪感が大きいんですね。

鈴木

もともとのその人の性格だけでなく、メンタルの負担が大きくなってくると「休むことへの罪悪感」が症状としても強く現れてきます。自責的な気持ちが強まり、休んだり他の人に頼る選択肢がどんどん狭まっていって「倒れるまでやりきるか、死ぬかしかない」みたいに考えてしまう。これは真面目さや責任感の裏返しでもあり、ハイパフォーマーの方にそうした傾向が強いように思います。
ただし、ストレスそのものが悪ということではないんです。ストレス学の始祖である生理学者ハンス・セリエは、「ストレスが適度にあることで最もパフォーマンスが発揮される」と言っています。要はバランスの問題です。
「ストレス過多」は問題としてわかりやすい。けど、仕事に飽きてしまうとか簡単なことばかりやりすぎているといった「ストレスが少なすぎる」状態も実は心身に悪影響を与えるんですよ。こういう状態を「アンダーストレス」と言います。
気圧みたいなもので、適度なストレス状態を保つのが理想です。

休みを取るために、人に上手に伝えるスキル

つっきー

上手に休みを取りながら、適度なストレス状態を保つってすごく難しいことですね。

鈴木

僕も研修医の時に、尊敬する上級医の先生から「安定したパフォーマンスを、何十年も維持する必要があるから、プロとして休む技術が必要なんだよ」と教えられました。すごく有り難い助言だったなと思いますが、僕自身もいまだに休むのが上手だとは言えません。休むことってすごく重要だけど、難しいんですよね。
僕の場合は、「午前中なのに寝起きみたいな状態が続く」とか「ちょっと目が開きにくい」みたいな状態を、休みを取るべきシグナルにしているのですが、そういう体のサインを読み取るスキルと、そこから休みを取るために人に上手に伝えるスキルは、また別です。休むためにはどちらも必要で、総合芸術みたいだなと思います。

つっきー

体が不調になる前のサインを感じ取れたとしても「今日ちょっと目が開かなくて」で休むのってなかなか難しいですよね。そういう時になんとなく休暇があれば、「休みます!」って言い出すのが苦手な人でも休みやすくなりそうです。

加勇田

休むために「人に上手に伝えるスキル」が必要ない組織にしたいですね。
そのスキルを身につける時間を、まるごと休む時間にまわすほうが、個人も組織も健全なので。

上司こそ「調子悪い」を共有することが、休みやすいカルチャーの第1歩

加勇田

休みやすい組織のカルチャーって、どうしたら作り出せるんでしょうか?

鈴木

よく言われていることですが、リーダーやマネジメント側の人が、率先して休んでいくことだと思います。立場が上の人が万全じゃないことをあえて見せるとか、調子悪いときに「今日調子悪いんだよね」って言っていくとか。
そうすると部下は安心するんですよね。部下には「休め休め」って言ってるのに、自分は全然休まない上司のもとだと、やっぱり休みにくいなっていうのはあると思います。

つっきー

なるほど。でも、上司やマネジメント側になる人って全然休まないタイプの方が多いですよね……。
そういう上司だとより「よく休むやつ」だと思われたくなくて、休むのを躊躇してしまいます。
例えば生理休暇も権利として保証されているわけですが、「この人、月に1回調子悪くなるんだ」って思われるのでは? と気にしてしまって、なかなか取得できないという声も聞きます。
生理に限らず、片頭痛持ちとか低気圧に弱いとか、定期的に調子が悪いタイミングがくる人は男女問わずいるので、そういうメンバー個々の体質に対して組織はどう受け入れ体制を作れば良いのでしょうか?

鈴木

例えば、ある調査では、片頭痛持ちの人って頭痛が起こっている時のパフォーマンスが通常に比べて2/3に下がってしまうと言われています。 PMSもパフォーマンスを7 割くらいに下げると言われています。その状態を放置したまま10日勤務したら、3 日欠勤してるのと同じ成果しか出せていない、ということになってしまいますよね。
だからといって「あまり体調を崩さなくて休まない丈夫な人だけを起用しよう」というのも非現実的ですし、いろんな人の不調やイレギュラーに対応できて、バックアップが効く組織の方が、サステナブルで働きやすいと思うんです。ギリギリのリソースで組織を回すよりもバッファを持たせてある方がアクシデントに強いし、僕自身もそういう環境で働きたいなと思います。

あと、これはHR的な視点ですが、不調や痛みの経験がある人って、他人の痛みに対しても寛容で理解があることが多いと思っていて、いろんな人のいろんな悩みや本音がそういう方に集まってくる。それって、経営的にものすごく大きなリソースなんですよね。個人的にもそういう人は話していて楽しいですし、別の視点から評価できる部分もあると思います。

加勇田

不調や痛みの経験がある人は、弊社にとっては、経営的にものすごく大きなリソースです。
ANBAIを展開する理由の1つは、誰かの脊髄反射的な「大丈夫」で成り立ってきた仕組みや社会を是正したいからなんですが、そのためには、どこに、誰の、脊髄反射的な「大丈夫」が存在しているかを知る必要があり、そういう本音が集まる方は非常に貴重な存在なので。

権利が消失する時にまとめて“消化”される有給休暇

加勇田

バッファのあるサステイナブルな組織づくりの観点で、現在検討しているのが「なんとなく休暇」は、翌月に持ち越せないようにすることです。
翌月に持ち越せないことで、月1日はその人が抜ける前提になるので、誰かが抜けることに組織が慣れるし、休みやすいカルチャーづくりにも繋がるかなと。

鈴木

使うことにインセンティブが働くのは良い仕組みだと思います。
休むことは難しい技術なので、組織にも個人にも“練習”が必要だと思います。真面目なタイプの方ほど、休み慣れていないのでうまく休めない、というパターンになりがちです。慣れが肝心なんですね。

つっきー

仕事の生産性を高めるノウハウは共有されても、休むノウハウが共有されることは稀ですよね。上手く休みを取ってリフレッシュしている人って自分なりの休み方を持ってたりしますが、そういう情報をもっとシェアしてほしい!

加勇田

仕事の生産性を突き詰めていくと、睡眠も含めて「生産性の半分は、休む技術」という結論たどり着いたんですが、よくある「仕事術」ってビジネスアワーのノウハウ共有に偏重してますよね。
その要因の1つは、休むことが文化になっていないことと、有給休暇の権利が消失する時にまとめて消化する「突発案件」になってしまっているからな気がします。
練習ができていないのにまとめて休むから、本人は休日を持て余す。組織側も急にまとめて休まれるので、慌てる。

対談までどうすべきか迷っていたんですが、組織と個人の練習のためにも、「なんとなく休暇」は翌月に持ち越せないようにすることに決めました。ありがとうございました