1000人以上がフルリモートの会社が実践する「会議ダイエット術」

1日4件以上の会議、突然休職の落とし穴対策

労働基準法よりもエラい上司なんていない。

1日4件以上の会議を境に、高ストレス者が急増、38%に達することが明らかになった「隠れテレワ負債」。
一方で、会議間の5分程度の休憩「会議間インターバル」を取り入れることで、そのリスクを軽減できるなど、会議過多に陥りやすいテレワーク時代の「休む技術」の重要性も浮き彫りになりました。(詳しくはこちら

今回は、「リモートワークを当たり前に」というミッションのもと、1000名以上がほぼフルリモートワークに取り組む、株式会社キャスター取締役の石倉秀明さんに「テレワーク時代の休む技術」についてお話を伺いました。

休みやすい空気は上司が9割

――キャスターでは1000名以上のスタッフがほぼ全員リモートワークという働き方をしていらっしゃいます。リモートワークを導入したばかりの企業からは「社員の顔が見えないためにメンタルの状態が分かりにくくなった」「上司やチームメンバーの顔が見えないと、休みを申し出にくい」といった声が聞かれます。キャスターではどのように対処していますか?

石倉
リモートワークが普及してからそういった質問をよくいただくのですが、「みんながオフィスにいた頃は社員のメンタルの状態は見えていたの?」「オフィスにいたら休みを申し出やすかったの?」と聞きたいです。
問題はリモートワークになったことではなく職場のコミュニケーションそのものにある。例えば業務時間を過ぎたらチャットを送らないとか、社員が子どもの用事で早退とかお休みしなきゃいけないときに「普通のこと」として休める空気を作るとか。そういう小さいことの積み重ねで休みやすい空気を作っていくことに尽きると思います。

――とはいえ、そういう空気づくりって難しいような気もしてしまいます。
「積み重ねた信頼」が壊れてしまうことをおそれて、自らが限界であることを表明することが心理的に難しい過剰適応傾向の方にとっては、「休みたい」を伝えることは勇気のいる行動だと、産業医の鈴木裕介先生も指摘しています

石倉
そこは上司にかかっています。体調が悪かったらチームに状況報告をして休む、ということをまずは上司からやっていくべき。
僕は子どもがいるんですが、緊急事態宣言で保育園が休園になったとき、リモートワーク中に子どもが遊びたがっていたから、会社のチャットに「ちょっと子どもと公園に行ってきます」って送って仕事を中断したりしました。僕が普通にそうしていると、社員もやっていいんだと思える。

――姿が見えないぶん、上司が率先して自分の状況や困りごとをチャットで共有していると安心できそうですね。

石倉
そういう空気を作るのは上司の仕事だとして、それ以前に仕事って個人と会社の間の契約であり、契約の中には働く時間の決まりも、休む権利も当然入っている。その権利を使うことに遠慮も申し訳なさを感じる必要もないし、他人が邪魔する権利はないんです。労働契約や労働基準法よりも偉い上司はいないですから。

オフィスの会話はチャットに、ミーティングはウェブ会議に置き換える

――業務進行のうえでもテキストのコミュニケーションを大事にしていらっしゃいますか?

石倉
自分も含めて社員には「チャットに結論だけでなく思考のプロセスも残すように」と言っています。チャットだと決定事項しか残さない人がいると思うのですが、口頭のコミュニケーションで結論しか言わない人って話が通じませんよね。リモートワークは口頭での会話がチャットに移行した状態なので、チャットにも「どのようなプロセスを経てその結論に至ったのか」を書かないと伝わりませんから。

――「リモートワークは口頭での会話がチャットに移行した状態」と考えると、リモートワークのさまざまなコミュニケーション問題の解決のヒントになりそうです。
ANBAIの調査では、1日に4件以上のweb会議があると高ストレス者になるリスクが高まるという結果が出ているのですが、キャスターではミーティングを減らすなどの工夫はされていますか?

石倉
リモートワークでミーティングがずっと続いている状態って、オフラインで考えると「みんながずっと会議室にいる状態」です。それじゃ仕事が進むはずないし、疲弊して当然ですよね。
実際web会議に出ても自分の作業してる人もいるし、何も決まらない時間があったりして、議事録を後から読むだけでも全く問題ない場合もある。それに、会議って1時間やって一個のことしか決められないけど、チャットなら並行していくつものことを決められる。キャスターでは、会議とチャットの使い方を分けて、無駄な会議を減らすようにしています。

――会議とチャットを使い分けて、具体的にどのように「会議ダイエット」されていますか?

石倉
まず、「上司に数値を報告するミーティング」は、分析してほしい項目を共有しておいて、テキストやデータでまとめてもらった情報を上司が自分で取りにいけば減らせます。
プロジェクトが始まった初期は、そもそも何を分析すれともにばいいのか?といったところを決めなければいけないのでミーティングを設けますが、何の数字を見て結果がどうで、次はこういう手を打ちます、というステップがメンバーに習慣付いてきたらミーティングは減らしてもいい。
プロジェクトが進んでいけばタスクと担当者が決まって、議論するべきことは減ってそれぞれが仕事を進めていくフェーズになるので、ミーティングは減っていかないとおかしいんですよ。
あとは、「重要なんだけど緊急性がない課題」は定期的にあえてミーティングの時間をとることで、強制的に次のミーティングまでにタスクをやらないといけなくなるので、放置されずに済みます。
逆に緊急性が高いことはチャットで素早く決めた方がいい。ミーティングで集まれる時間を決めてそこまで待つよりスピーディーに進みます。

――会議の目的設定をしたうえで適切に断捨離していくこともまた上司がキモになりそうですね。

「リモートwith子ども」無理問題はどう解決する?

――隠れテレワ負債の調査では、お子さんがいる人ほど高ストレス者になりやすいという結果が出ています。先ほど、お子さんを公園に連れて行ったエピソードがありましたが、正直経営者ではない普通の社員だったら、周りの社員の目が気になってそういう働き方は難しいと感じる人もいそうです。

石倉
やはり今の社会だと、上の立場の人間が、いかに子育てなどの事情を汲めるかどうかで社員の働き方が大きく左右されてしまうと思います。僕は子育てをしているけど、やったことない人には子育てしながら働く人の感覚はどうしてもわからない。
だから「俺の考えた最強の女性活躍」的な的外れな施策が出てくるわけで。
かといって、「わかってない」上司に説明して説得して「わかってもらう」のって一社員にはコストが高すぎる。
だったら、わかってくれる会社を探して転職する方が早いと思います。いまは我々キャスターだけにとどまらず、柔軟な働き方ができる新しい会社がたくさんありますよ。

リモート時代に求められるスキルとは?

――柔軟な働き方ができる新しい会社で働きたい人はどんどん増えそうです。これからリモートの時代に求められるスキルはどんなものだと考えますか?

石倉
報連相する、人を疑心暗鬼にさせない、当たり前のことを当たり前にする。ですね。
リモートで働けるのって所詮優秀な人だけでしょうとよく言われるんですが、求められることはよりシンプルになっていくと思います。
リモートになって姿が見えなくなると、ちゃんとタスクを期日までに進めてくれる人への安心感や信頼感がより増します。
逆に、オフラインのときはキャラや口のうまさで誤魔化していた人って、オンラインだと誤魔化しが効かないから「あれ、この人仕事進んでなくない?」って、メッキが剥がれる。
あんまり目立たないし話し上手じゃないけど仕事はちゃんとする、という人が再評価されるのがリモートワークだと思います。

――なるほど。いわゆる声の大きさよりも仕事の本質的な部分が評価されるということですね。

石倉
そうです。報連相でいうと、仕事が思ったように進まないことや、困りごと、体調不良などイレギュラーも含めて共有してくれる人の方が一緒に働きやすいですよね。
姿が見えていようがいまいが、上司もエスパーじゃないので言ってくれないと分からない。
共有してもらってはじめてどうすべきか助言やサポートもできるので、無駄に空気を読んだりせずに報連相するのはマストです。

――イレギュラーやネガティブな事象も含めてどんどん共有していくことで、より組織の心理的安全性も高まりそうです。

石倉
あと、これは常々思うのですが、会社に仕事以外のことを求めすぎるのも良くないと思います。
同僚みんなと仲良くならなきゃとか、もっとやりがいを感じなきゃとか、仕事をする上での必要最低限の人間関係以外のことを期待しすぎです。
たまたま同じ会社に居合わせた人間同士というだけなので、多少気が合わなかったりコミュニケーションしにくい人がいてもしょうがない、くらいの気持ちでいた方が、疑心暗鬼になりすぎずいられて楽だと思います。「お金を稼ぐために働いてる」くらいで全然いいと思いますよ。

月曜日は毎週休みたいと思ってる笑

――ANBAIを運営する株式会社DUMSCOでは、躊躇なく「休みます」と言える企業文化を作っていくために、通常の有給休暇とは別に、月1日の有給でのサボリを公認する「なんとなく休暇」を運用しているのですが、石倉さんには「実はしんどくて休みたくなる」ことはありますか?

石倉
家でトラブルが起こっているときとか、雨の日とか休みたいですよ。月曜日なんて毎週休みたいと思ってます。スタートアップの人は「月曜が楽しみ!」とか言うけど、普通に会社行きたくね〜ってなります(笑)
僕の経歴や立場を見るとすごく仕事好きそうに思われるけど、夜7時より遅くまで働いたことはほとんどないです。

――本当に意外です。体調やメンタルが仕事に影響したことはありますか?

石倉
僕はパニック障害の発作があったりして体が弱いのでしょっちゅう体調崩しますよ。満員電車もすごく苦手だし。でもだいたい週末に体調が悪くなるので、会社では元気だと思われちゃうのが困りもんです(笑)
そんな僕ですが、運良く経営者という仕事が向いていて、あまり時間の縛りなく働けるのはラッキーだったと思います。そういう、周りは苦労してやっているけど自分にとってはそんなに大変じゃないことが自分の得意なことだと思うので、それを見つけて働けるのが一番ストレスのない形ですよね。