2021年10月14日

約20%の「大丈夫」と言い続けた社内キーパーソンが、突然休職する真相

約20%の「大丈夫」と言い続けた社内キーパーソンが、突然休職する真相

社内外で評価されていた年収800万円以上のキーパーソンが、「大丈夫です。」と言い続けた結果、ある日突然、休職する可能性がある隠れストレス負債。なぜ「大丈夫」と言い続けたキーパーソンたちが、突然休職するのか。
心療内科医で、『メンタル・クエスト 心のHPが0になりそうな自分をラクにする本 (大和出版)』の著者でもある、鈴木裕介先生に分析頂きました。

鈴木裕介(すずき・ゆうすけ)

鈴木裕介(すずき・ゆうすけ)

内科医・心療内科医・産業医
2008年高知大学卒。2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原内科saveクリニックを開業。研修医時代の近親者の自死をきっかけに、ライフワークとしてメンタルヘルスに取り組み、産業医活動やSNSでの情報発信を積極的に行っている。
著書に『メンタル・クエスト 心のHPが0になりそうな自分をラクにする
twitter: @usksuzuki

ストレスに先に気づくのは「頭」よりも「体」

――調査の結果、主観評価では高ストレスと認定されないのに、ANBAIを利用した客観評価では高ストレスと認定されるケースが明らかになりました。そしてその割合は、ビジネスパーソンの18%に上ります。そもそもなぜ乖離が発生するのでしょうか。

鈴木:「心身の疲労」という言い方をよくしますが、心が疲れているときに、どうなるかというと、最初に体の症状が来るんです。頭痛とか胃痛、吐き気のような症状が出てくるわけですが、そのときに「自分にストレスがかかっている」と自覚できる人は少ないです。ストレスを感じると、そのストレス状態に対抗するために、アドレナリンやコルチゾールなどの抗ストレスホルモンと言われるものが出て、血圧を上げたり血糖値を上げたりしてその状況に対抗しようとします。その期間は、ストレスがかかっている状態ではあるんだけど、自分ではストレスだと実感していません。これはストレスの本質的な問題でもありますよね。人間はストレスを頭で考えようとします。でも頭で考えていることと体が感じていることには、実はものすごく乖離がある。得てして体のほうが鋭敏であるということが多いんですね。

――代表的な体の反応として、どんな症状が現れるのでしょうか。

鈴木:ストレス状態になると、身体のいろんな部位の血流の障害が起こるので、もうあらゆる症状が起こり得ます。極端なものでいうと、嫌な上司がいる方向だけ耳が聞こえないとかですね。一番多いのは、不眠などの睡眠障害。寝つけなくなったり、途中で起きてしまったり、逆に過眠になったり。朝の頭痛も多いですね。他にも吐き気とか、お腹を下して途中下車したりとか、手のしびれ、もともと持っている持病が悪くなる人もいますし、過敏性腸症候群とか逆流性食道炎の症状が出る人もいますね。37度台の微熱が出る人や、高血圧もそう。ストレスを感じると、交換神経刺激を感じて、血圧は上がるんですが、自分で血圧が上がっていることに気付かないし、ほとんど自覚もないです。それがストレスから来る体の防衛反応だということに気づかない。

――外来を訪れる患者さんでもそういう方は多いですか?

鈴木:私のクリニックには頭痛外来があるんですが、頭痛外来に来られる方の3分の1から半分ぐらいは、メンタルストレスの指標でもかなり高い点数が出ます。ですので基本的に頭痛外来に来る方にはそうしたチェックをさせてもらっています。会社でのストレスで追い詰められている人が、乗り換えの駅で動悸がしたり吐き気がしたりしますが、それはその会社に行くことが危険だって体が先に気付いてるんですよね。体の方が賢いですから。でも頭で「やりがいがある仕事だし」とか「休んだら迷惑がかかる」と思っていたりすると、自分が追い詰められていることに気づけないんです。

「大丈夫です」と他人を優先する社内キーパーソンこそ、隠れストレス負債を抱える

――ANBAIでは、自分ではストレスと感じていないものの客観評価でストレスが見受けられる人を「隠れストレス負債者」と呼んでいますが、彼らの特徴として、年収が高いという点がありました(隠れストレス負債者の63%が年収800万円以上)。社内の優秀なキーパーソンとも言える人たちですが、どうして隠れストレス負債を溜め込むことになったと思われますか?

鈴木:頭が求めることと体が求めることが違うんですが、現代人は一般的に頭で考えたことのほうを優先してしまうところがありますよね。さらに能力が高い人ほど、自分が頭で考えてきたことによって、結果や高い評価を得ているので、より頭を優先する傾向が強まってもおかしくないように思います。『メンタルクエスト』という著書にも書きましたが、「メランコリー親和型」と呼ばれるタイプの人たちがいて、鬱などになりやすい性格と言われています。メランコリーは「憂うつ」という意味なので、「憂うつに馴染み深い性格」というそのままの意味なんですが、いわゆる真面目な優等生タイプ。規範意識と責任感が強い、委員長タイプの人ですね。完璧主義で他者を重んじる、親切・律儀・誠実であるなどの特徴があると言われています。この性格がどこから来るかというと、それはいろんな要因があるんですが、幼少期の体験が大きく影響します。、例えば、つねに家族をサポートしないといけない立場だったり、不仲な両親を取り持っていたりするような経験を持っていることが多い。それで自分よりも他人を優先する傾向が強くなる。自分の体調よりも、会社のこと、部下のことなどを優先してしまいがちで、セルフモニタリングが疎かになりがちです。

――関連する調査結果として、隠れストレス負債者の95%が「大丈夫です」が口癖で、79%が断るのが苦手という調査結果が明らかになりました。メランコリー親和型の特徴と、共通点があるように見られます。

鈴木:周りにヘルプを求める気持ちがないわけではないんですが、それよりも心配をさせることのほうが申し訳ないと思ってしまう、『複雑な乙女心』があるんですよね。助けてほしい、何とかしてほしいと思っていないことはないんだけれど、でも心配をかけるのは心苦しい。そのバランスが難しいわけですが、なんだかとても人間らしいなと思います。

自分のキャパシティを超える事態に要注意

――優等生タイプであるメランコリー親和型の人が陥りがちな落とし穴のようなものはありますか?

鈴木:優秀な方たちは、自分はそこそこできると認識していますし、実際、人に頼ったりしなくても問題が解決できてしまうことが多くあります。でも、例えば、産後、就職や転職、職責が変わったタイミングなどで、必ず自分のキャパシティを超える事態が起こります。優秀であるが故に、独力での問題解決を好み、他の人に頼るという選択をとりにくい傾向がある。そもそも頼る、断るという経験が少なく、苦手意識があるかもしれません。でも周りからすごく期待されているし、そこから降りられない。ずっと優等生できた方が、最初のキャリアにおいて自分の力でどうしようもないクライシスが訪れて、尋常じゃない崩れ方をしてしまうことは、よくあります。研修医などにも多いと思います。相手からの評価が下がることを恐れずに「ちょっと無理です」「今日はそれはできません」と伝える勇気と強さを持つことが大事になるかと思います。

――例えばコロナ禍が続いている今の状況も、「自分のキャパシティを超える事態」に含まれそうです。“コロナ鬱”のような状態に陥っている方々の中にも、メランコリー親和型の人が一定数含まれると推測されますか?

鈴木:メランコリー親和型の性格のベースには、「秩序志向性」という特徴があります。自分で決めたルール・規範をしっかり守ろうとする性質のことです。秩序立った几帳面さから、他者に対しても良心的で仕事に関しても責任感が強い。
その一方で、秩序が崩壊するような大きな変化、予測不可能な事態に非常にストレスを感じやすい。ですから、コロナ禍のような、大きな環境の変化、これまでの秩序の崩壊はメランコリー親和型の方にとっては非常に負荷が強いだろうと予測されます。

――一旦崩れてしまったときにも、うまく休めない人が多いように思います。

鈴木:休職をしていても、そこで悩まれている方は多いんです。「一刻も早く戻って遅れを取り戻さなきゃ」とか、「休んだことを逆にチャンスにして、資格や英語の勉強しよう」とか言う人は治療期間が長くなりやすい。「休むときは不安で仕方なかったけど、しっかり休みを入れたことで大事なものを考え直すことができた」「休み方がようやくわかってきました」という人のほうが治るんです。僕も休むのが下手なタイプなので、空白を入れることの大事さと難しさは、僕自身も実感しますが、効率を求めすぎると、結局、生き方として非効率的になってしまうところがあると思います。

――就活人気企業ランキングの常連のメガベンチャーで、社内外から注目されていた部署に栄転するも、隠れストレス負債から休職を経験したつっきーさんも、当時を『(休職した)ベッドの上でさえ「何かしなければ」と空回りし続ける馬車馬であり続けていた』と振り返っていました

「仕事で得られる自己肯定感」という誤解と魔物

――コロナ禍のような、大きな環境変化の中で、「人に頼れない」状況以外にも、優等生タイプが陥りやすい落とし穴はありますか?

鈴木:優等生タイプには、仕事で得られる自己肯定感を支えにしている方が多いですが、これも陥りやすい落とし穴です。 そもそも仕事での成果や評価によって得られるのは、「自己肯定感」ではなく、「自己効力感」です。一言でいうと、「自分はできる」というのが自己効力感です。仕事で成果が出ているときや周囲の期待に答えられているうちは大丈夫だという感覚ですね。一方、たとえ成果を出していなかったり周囲の期待に応えられていなくても「自分は大丈夫」と思える感覚が「自己肯定感」です。他者評価や自己評価とも切り離された感覚であることが重要なところです。だから、努力して成果を出して周囲に貢献したぞ、と感じても、高められるのは自己効力感だけで、自己肯定感は無関係なのですね。とはいっても、自分一人で「よし、今日から自分は大丈夫だ」と急に意識を変えられる人はほとんどいません。自分を肯定するために必要なのは、自分を否定しない他人です。

――その「信頼できる人」を探すのが、とても難しいようにも感じてしまいます。特に「大丈夫」が口癖な人たちは、相談が苦手な人も多いですよね。

鈴木:そうですね。「信頼」というものが、「親密」である必要はないと思うんです。信頼できる人を探そうと思ったとき、自然と自分の近い人の中から見つけようとすると思いますが、「親密なもの」に対して安心感を感じられない人たち、人間関係に対して回避的な方もいらっしゃいます。例えばカウンセラーであれば、お金が介在しているという、絶妙な遠さがあります。でも、そういう距離だからこそ本当のことを言うことができたという人もいるんです。

後編では、人に頼るのが苦手、親密性に対して安心感を感じられない、隠れストレス負債者もいる中で、親密性の最たるものである1on1でのNG事項、注意事項を鈴木先生にお伺いしました

編集:高橋有紀

2021年10月14日

鈴木裕介(すずき・ゆうすけ)

内科医・心療内科医・産業医
2008年高知大学卒。2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原内科saveクリニックを開業。研修医時代の近親者の自死をきっかけに、ライフワークとしてメンタルヘルスに取り組み、産業医活動やSNSでの情報発信を積極的に行っている。
著書に『メンタル・クエスト 心のHPが0になりそうな自分をラクにする本 (大和出版)』など